ある男の話
ある男は、何か違う、と思った
その、予感と言うべきか発見と言うべきか分からない、胸の痛みにも似た感覚は、あるとき突然男にやってきた
あ、っと気づいたような
時間が一瞬だけ止まったような
ほんの少しの違和感のような
とにかく一瞬だけ、空気がピリッとしたような感じがしたのだった
男は、ある女性に想いを寄せていた
その女性について、男は、何か違う、と思ったのだ
正確に言うと、「何か違う」というよりは「解った」という感じ、「解った」というよりは「目が覚めた」という感じ、「目が覚めた」というよりは「何か違う」という感じである
男は、散歩をしている最中に、それを感じた
想いを寄せている女性のことを、考え出した瞬間、思い出した瞬間のことだった
男は、その女性に一種の不信感を覚えた
おかしい、と思ったのだ
その女性の自分に対する態度、扱い、言動のすべてがおかしいと思った
これは本来の形ではない、と
これはあるべき形ではない、と
あの人は、もっと優しいはずなのだ
俺を邪険に扱っている訳ではないが、彼女はたまに俺に対して冷たいのだ
それはきっと彼女の気分次第なのだが、彼女はそうしたくてしているわけではなく、彼女はまだ子供なだけなのだ
自分の感情を、周りの人達のようにうまく抑えたり隠したり変えたりそうゆうことがまだ出来ないだけなのだ
彼女は、俺に頼りたい
彼女は、俺ともう少し仲良くなりたいと思っている
彼女は、俺のことが好きなのだけどそれにまだ気づいていない
彼女に会わなければ
彼女の側にいて、彼女が気持ちとは裏腹に俺のことをを遠ざけようとしても、俺は彼女の側にいなければならない
彼女には、俺が必要だ
彼女の態度を、俺はそのまま受け取っていた
そんなわけはなかった
彼女は俺を求めていたのだ
男は、すべてを理解したような気持ちになり、その一瞬で、男は顔付きまでもが変わった
男は、今までの自分を恥じた
想いを寄せている女性に、自分のなにもかもを謝りたいと思った
男は、今まで自分がその女性に対して抱いていた、憎しみにも似た愛の形がすうっと変形するのを見た
その女性の、なにもかもを許し、愛し、抱き寄せ、包み込もうと思ったのだ
愛の形が変わった
男は晴れやかな気分になり、その女性の元へと足を進めた
男のこれからは、限り無く矛盾に満ちた、途方もない愛と闘うものである
続きはまた、男が動き出したら語ることとする
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